2025年夏に行われた参議院選挙では、SNSの活用に長けた参政党が予想以上の議席を獲得し、政治関係者やメディアを驚かせました。特に注目されたのは、若年層を中心とした支持の広がりと、情報発信のスピード、共感の連鎖でした。
一方、長年にわたり日本政治の中核を担ってきた自民党は、従来型の選挙手法に依存し、SNS活用の戦略性に欠けていたことから、議席を減らす結果となりました。この選挙結果は、政治のあり方が大きな転換点に差し掛かっていることを強く示しています。
なぜSNSがここまで影響力を持つようになったのか?
SNSの影響力が急速に高まった背景には、以下のような社会変化があります。
1. 情報接触の中心がSNSに移った
かつて政治情報の主な媒体は新聞・テレビ・街頭演説でした。しかし現在、特に18〜39歳の有権者は、X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、TikTokなどのSNSから政治情報を取得しています。
SNSは単なる情報源ではなく、感情的な共感や批判も含めた「世論の流れ」をリアルタイムで反映させる舞台となっています。
2. 発信者と受信者の境界がなくなった
SNS上では、政治家だけでなく、インフルエンサーや一般市民も政治的意見を発信し、影響力を持ちます。「共感できる発信」が拡散されることで、特定の主張が社会全体に浸透するスピードが一気に加速するのです。
3. 説明よりも“物語性”が求められる時代
SNS時代においては、論理的な説明よりも「共感」「リアル」「ストーリー」の方が拡散されやすい傾向があります。特にTikTokやYouTube Shortsなどのショート動画は、難しい政策よりも「感情に訴える瞬間」の方が記憶に残り、投票行動に直結することが分かってきています。
参政党はなぜSNSで成功したのか?
参政党は、従来の政党とは異なるアプローチでSNS運用に取り組みました。その成功の要因は次のように整理できます。
1. インフルエンサーとの連携
参政党は、政治系YouTuberやX(旧Twitter)上の有力アカウントと連携し、「自分ごと化」したメッセージを発信しました。情報拡散において第三者の声は信頼を高める効果があり、結果として共感の連鎖を生み出しました。
2. ショート動画戦略の徹底
TikTokやInstagramリールを活用し、短く・印象的な言葉や映像で「政策を語る」のではなく「感情に訴える」コンテンツを大量発信しました。特定のワードやモーメントを切り取り、“バズらせる”設計がなされていたことも特徴です。
3. フォロワーとの「双方向性」
フォロワーのコメントや反応に対し、スピーディーにリアクションすることで、支持者との心理的距離を縮め、「この政党は自分たちの声を聞いてくれる」との印象を強めました。
自民党がSNSで後れを取った理由
自民党は組織力と資金力に優れ、紙媒体・TVメディアでは依然として強さを発揮しています。しかしSNSという「共感・拡散」が主軸の世界においては、次のような課題が浮き彫りとなりました。
1. 投稿が一方通行
公式SNSは形式的・定型的な投稿が多く、有権者との対話という視点が欠けていました。コンテンツも「政策のお知らせ」や「記者会見報告」など、感情に響きにくい内容にとどまり、拡散力が弱かったのです。
2. 顔が見えない
自民党の多くの議員は、個人アカウントでの発信を限定的にしか行っておらず、「誰が、どんな想いで、どんな未来を描こうとしているか」が見えにくい状況でした。SNS時代においては、“顔”と“感情”が共感の起点になりますが、そこに弱みがありました。
3. リスク回避が逆効果に
失言や炎上を恐れるあまり、「無難」な投稿ばかりが並びました。その結果、話題にならず、可視化されない=存在しないものとして扱われる事態に陥りました。
今後の選挙戦に必要なSNS戦略とは?
この選挙を経て、すべての政党・政治家に突きつけられたのは、「もはやSNSを避けては勝てない」という現実です。今後の選挙戦では以下のようなSNS戦略が必要不可欠になると考えられます。
- 共感を重視したコンテンツ設計
ロジックよりも感情、政策よりもストーリー。支持を得るには「人間味」が必要です。 - 動画を中心とした展開
ショート動画・ライブ配信・日常の裏側など、映像を通じて“人間としての政治家”を感じてもらう工夫が必須です。 - コミュニティ型のアプローチ
一方的に情報を届けるのではなく、「共に考える」双方向の場をSNS上に作ることで、ファン化・支持者化を進められます。 - チームによるSNS運用体制の構築
政治家個人がすべてを担うのではなく、デジタルに強い運用チームを組み、コンテンツの企画から分析までを一貫して行う体制が求められます。
結論:選挙は「SNSの舞台」で戦う時代に
今回の参院選で明らかになったのは、SNSがもはや「補助的な広報手段」ではなく、「選挙戦の本丸」であるという事実です。票を動かすのは、政策や実績だけではなく、「SNS上での共感の総量」です。
今後、政治家や政党が真に有権者の信頼を獲得し、票を伸ばしていくためには、SNSという舞台でどう物語を語り、どう共感を生み出し、どう対話を築いていくかが問われることになります。
SNS運用はもはや選択肢ではなく、必須の戦略。政治とテクノロジーの交差点に立つ今、その変化に適応できる者だけが、次の時代のリーダーになれるのです。
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